05 中山の家 2010

閑静な丘陵住宅地に建つ60代夫妻の住宅である.
夫妻は結婚してから長い間両親との同居生活を続けていたが,母屋の隣地を購入する機会を得て,ようやく30年目にして新居を構えることとなった.
夫妻と対話を重ねていくごとに,今後20年,30年の終の棲家となる住宅というものが,いかに夫妻にとって拠り所となるものであるかを感じ,今後の穏やかな暮らしを楽しむ空間の在り方の検討を繰り返した.
夫妻の要望は
■光や風を感じることができること
■趣味に没頭することのできる一人のスペースがありながらお互いの気配を感じることができること
■ご両親や孫たちも集まって食事ができる場所を用意すること
■畑をつくること
である.

ふんわりと張られたテントのように生活を覆い,そのなかで心地よい距離感を確保するために,単純な正方形のなかに敷地の高低差を活かした計画とした. 半地下から小屋裏空間まで,全5層のスキップフロアである.リビングを中心に据え各室がダイレクトに繋がる明快なプランに対して,レベル差によるシークエンスを取り込むことにより奥行きに深さを与えている.
また,上下どの場所からでもリビングが垣間見え求心性を感じることができる一体的な空間となっている.随所に配置した吹抜けからは天井の低い落ち着いたリビングに光が差し込み開放感を与える.
玄関から繋がる畑に面した広々とした土間空間は,太陽の日射を存分に受け蓄熱の効果も果たす.その土間とリビングにまたぐ長い食卓テーブルは,両親から孫までの4世帯が集う場となる.

外観は,平屋に屋根のふところを利用した2階をつくることでボリュームを抑え,レベルの下がった隣家に威圧感を与えず,高低差のある住宅群になだらかに溶け込むよう勾配や棟の位置を図っている.偏心した方形屋根は土地の高低差の影響をも受け,見る角度により住宅の表情を変化させる.遠目では小さな佇まいでありながら,近づくほどに天井から張り出した軒先がシャープな印象を与え,内部に入れば垂直性が強調された圧倒的な量感と包容力ある勾配天井が出迎える.

テントが自然を楽しみ味わうシェルターであるように,この住宅も大きな屋根の下で随所に自然を感じることのできる場となっている.窓から見える木々の緑や吹抜けから見上げる空の青さ,外部テラスには室内から風が吹き抜け,土間に連続した畑からは土の匂いが入り込んでくる.雨の日には窓の向こうに雫のカーテンが垂れ下がる.
食卓には,主人が近くの川で釣ってきた岩魚が塩焼きとなって並ぶ姿も目に浮かぶようである.

この住宅が,そんな夫妻の穏やかな生活をやさしく包み込むようなものであってほしいと願っている.


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【概要】
用途:専用住宅
敷地面積:230.72㎡
建築面積:84.54㎡
延床面積:123.08㎡
構造:木造在来軸組工法
階数:2階
設計期間:2009.03~2009.09
施工期間:2009.10~2010.04(擁壁等造成工事含む)
設計監理:一級建築士事務所アーバンスケープ
施工:株式会社片倉工務店



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